皆様は
路麺店(ろめんてん)という言葉をご存知だろうか。路麺店とは
道路に面して店舗を構える店を指す路面店から転じた言葉で、
いわゆる立ち食いソバ屋のことなのだが、そのなかでも
駅構内にあるような大手チェーン店ではない、街角で個人営業している立ち食いソバ屋を指して使われるのが一般的であるようだ。「路麺店」でGoogle検索すると約230,000件のヒットがあるので、メジャーな言葉になりつつある模様である。
なるほど、最近の立ち食いソバ屋では椅子席やカウンター席を用意している所も多いから、すべての店を立ち食いソバ屋と表現してしまうのは現状に即していない。ともあれ、
こうした言葉が生み出されること自体、立ち食いソバ屋の愛好者が多い証左ではないだろうか。
ご多分に漏れず、自分も立ち食いソバ屋…もとい路麺店愛好者の一人である。自分は蕎麦が好きで本格的な日本蕎麦も良く食べるが、
路麺店のソバには本格的な蕎麦とは違った美味しさがあると思うからだ。なにより思い立ったら、例え朝早い時間であっても手軽な値段で食べられるのが良いではないか。しかし、どうせ食べるなら味に拘る路麺店で食べたいので、

東急線・旗の台駅
或る路麺店を目当てに旗の台までやってきた。
だし家 (そば / 旗の台、荏原町)旗の台駅の東急池上線・五反田方面ホーム出口から道路を挟んで向かい側に店を構える(詳しい場所は上部リンク先)『だし家』さん。その名のとおり、ダシに拘る路麺店として業界紙に取り上げられたほどのお店である。

店内はカウンター席がいくつかあるだけの典型的な小規模路麺店。店のレイアウトも概ね他の路麺店と変わらないが、卓上を今一度チェックしてみれば、
卓上に“返し”が入った小瓶が置かれていることに気がつくだろう。
少し話が脱線するが、返しとは醤油・味醂・砂糖等を基本材料として作られる、言わば
ソバツユの元である。ソバツユは、この返しにカツオ節、サバ節、昆布等から取ったダシと合わせたものだ。ラーメン屋では醤油などから作った元ダレにトリガラ・トンコツなどから取ったダシを合わせてスープとするが、元ダレに相当するものが返しだと思っていただければよい。
返しを作る理由であるが、それは醤油の生成過程にある。醤油とは大豆・小麦・塩・水を材料として麹菌で発酵させた食品だが、麹菌は独特のクセや臭いを持っている。こうした
麹菌の持つデメリットを取り除くために返しを作って、クセや臭いを取り除くのだ。
閑話休題、お店の入り口に張られた新聞記事によれば、
返しはヒガシマルとヒゲタという2種類の醤油を使い、店舗とは別の場所で一週間寝かせている。また
ダシは昆布をベースにソウダ節・サバ節・カツオ節と3種類の厚削りを使用し、しかも一日に何回にも分けてワザワザ挽き直しているそうだ。つまり『だし家』という店名だけあって、それだけダシに拘っているお店なのである。

しょうが天そば(330円:税込)
前置きが長くなってしまったが、これが同店の名物でもある、しょうが天そば。注文すれば遅滞なく出てくるのが路麺店のよさ。時間のないときにはとても有難い。諸物価高騰の影響で若干値上げしたのだが、それでも
同店のソバは200~300円台が主な価格帯。なんと良心的であろうか!

麺は「立ち食いソバ屋で出てくるソバ」と聞いて想像できるであろう、
ゆで麺を温めなおした柔らかいソバである。同店に限ったことではないが、短時間で食事を済ませることができるという路麺店の利点にマッチした、とても食べ進めやすい麺だと自分は思う。断っておくが、本格的な日本蕎麦と立ち食いソバには、それそれの良さがあるのだ。

しょうが天は、
思いのほか紅生姜の自己主張が控えめで、ソバツユの良い引き立て役となっている。紅生姜――とりわけ路麺店に良く置いてある紅生姜は添加物や着色料の味が強く往々にして他の味を塗りつぶしてしまうものだが、さすがにダシを売り物にするだけあって、ちゃんと配慮されている。

そして
ツユの味は凡百の路麺店とは段違いの美味しさだ! 卓上の返しは「味が薄い」と感じる人のためのもので、確かに濃口醤油ベースで塩辛くハッキリとした味わいの関東風ツユを食べなれていると一口めはそのように感じるかもしれない。
しかし少し落ち着いて、もう一度ゆっくり味わうと、
薄口醤油と昆布そして3種類の削り節が織り成す、穏やかで程よく優しい、上品とも表現できるツユの奥深い味わいに気づくだろう。自分は卓上の返しを投入する必要は無いと思う。
ややもすると市井の一般的な蕎麦屋より余程良いソバが食べられる『だし家』さん。近くに訪れた際はご利用されてみては?
◆最後までお読み頂きありがとうございました。

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posted by 只今(橘カヲル) at 00:01| 東京 ☀|
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食:蕎麦・うどん
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